「8. 寒天製造に係る伝統的な知恵」 高槻を中心とする大阪府下における 寒天産業の歴史的・文化的・社会的特性

8. 寒天製造に係る伝統的な知恵


高槻市城山の宮谷源次郎氏・橋本佐太郎氏の語る所によると、北から南へ雲足が早い時は北風が吹いて、キタケと言われ、雪やシマケ(雨)が来ると製品には良くないが、これらの来ないときはキタケの時は寒く良く凍ててキタイテと言われる。しかし、キタケの時は、雲が出て夜中中見張の必要がある。キタケの一種で、真北では無く、一寸乾(北西)の方向からの風は良好で寒さ強く、特に角寒天には良くてイヌイイテと言われる。ニシ(西)の強いものはシラニシと呼ばれ、寒気強くイチヤヌケと言って一晩で心太が完全凍結する物で、昼でも凍結し、これも一週間位は続く。未・申(南西)の方より子・丑・寅(北から北東)の方面へ雲が行けば、暖寒でイテにくく天雲であるが、然し雨はあまり降らず、サーッと降ってはあがる時が多く、全くイテず、この天候も一週間くらい続くものである。しかも寒さぬくさは大体一週間位宛続いて交替する様に考えられ、雨の際は雨の前一日・前の日一日・雨後の一日合計三日間は駄目で皆目イテぬ。又南西の雲のかたまり(岩雲と言う)が出ると強くイテルと言われている。


高槻市原の寺下文次郎氏も、ニシは三日間位きついのが来て良く凍り、キタは寒くても雲が出て寒い割に凍り難く、職人は夜明しして監視せねばならず、ミナミの時は、晴天でもヌクイ、雨になり温い風になる。ヒガシは雨多いと言っている。


高槻市服部の川上彌三郎氏の話によると、「イヌイが晴れぬとイテヌ」と言ひ、又「キタ押したら雨や」、即ち北から雲が来た場合は雨になる事多く温かで凍らぬ。寅・卯(北東から東)から雲が押して乾(北西)へ入ると天気も良く寒さも強い。南から丑・寅(北東)へ雲が行く(「雲が京行キスル」と言ふ)と雨。イヌイグモは凍てぬ。風は寒天に悪く、北風・西風は嫌で無い方が良く、凍結・乾燥共に悪い。一夜抜けは寒天がバラツクと言われている。


 高槻市原の谷口百太郎氏工場の棟梁の神内鉄太郎氏の言に依ると、ニシはイテに良いが空気が乾燥する故、風乾きになって乾燥には不良であるから防風の簀を立てる。キタは大きいのは無い。ヒガシ・ミナミは雨の前兆と言ってゐる。

(以上、大阪府経済部水産課(1951)『寒天の地理学研究』より編集)

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※本文は平成24年度にNPO法人ノートの依頼で筆者が調査した内容を、依頼者の許可を得て掲載しています。